仕事を終えて帰り道 知らない町の国道を走行中
この車も もうずいぶん乗った
買ったのは4年前 あのころは東京で仕事が忙しくて
日曜日くらいしか乗る時間ないのかなぁと思いながらも
やっぱり自分の車が欲しくて勢いで買ってしまった
手に入れてみれば乗るもんで
藤沢へ行ったり来たり 栃木へ行ったり来たり
休みの日には毎日乗るし 旅行にもずいぶん行った
友達と飲んでるうちに気持ちよくなって
家の前に停まってたこの車の上に登って宴会したこともあったな
今でも屋根がちょっと凹んでいる
そんなことをぼんやり考えながら国道を走っているうち
小さな定食屋を見つけてハンドルをきる
木造の平屋で 歴史を感じる店の外装
店の前の大きな駐車場にはトラックやタクシーが点々と停まっている
店内は意外と広く 4人がけのテーブルが15セットほど
客は40代~50代の1人客が多く みんな1人ずつテーブルを占領している
端っこにあるテーブルを選んで座り 注文する
ふと顔を上げると 客はみな同じ方向を向いている
後ろを振り返ってみると大きな液晶テレビが1台 どの席からでも見える位置に置いてある
客たちは食事は終わっているようだが ぼんやりとテレビを見続けている
流れているのは 昭和の歌謡曲特集
まんまと知らずに テレビに背を向けて座ってしまったが
テーブルの反対側へわざわざ移動する気になれず
なんとなくケータイをいじってみる
高校生くらいの女の子が定食を運んできた
この店の娘なのか ずいぶんと慣れた様子で働いている
特に急ぐ理由もないので ゆっくり食べていると 知らないうちにテレビの歌謡曲を聴いていた
どれも聴いたことはあるけれど 特に思い出や特別な感情は湧いてこない
周りの客たちはやはり青春時代の曲ばかりなのだろう 昭和の男たちは熱心に見ている
しかし 誰もしゃべらない ただ黙ってみんな聴いている
食事は終わったが なんとなくこの空気をもう少し味わっておこうと思い
椅子に後ろ向きにまたがり 背もたれを抱く
中学校の休み時間をふと思い出す
男たちと黙ってテレビを見る 悪くない
番組は急にスタジオに切り替わる
どうやら「うたばん」のコーナーで 懐かしの名曲を流していたらしい
ゲストで話しはじめたのは ライズと市原隼人
客たちはさっきほど集中していないように見えるが 誰も席は立たない
さっきの女の子がテレビの前の席に座り
今度は彼女が熱心に見ている
どっちにも興味が持てない俺は席を立つ 女の子があわててレジに走ってくる
まだ時間は早いけれど 誰も知らない町ではやることが見つからず 家路につく
ふいに彼女から電話があり、これから1人で近所のスナックに飲みに行ってくるとのこと
どこにでも顔を出して すぐにその場になじめる性格を尊敬する
俺もどっか知らない店に適当に入ってみようか
ふと思ったけど やっぱりまっすぐ家路につく
隣の部屋の人に気を使いながら 控えめにギターでも弾こう
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